「薔薇の騎士様、優勝オメデトー！　本当に凄いレースでした、最後まで諦めない姿、ホントのホントに大感動です！　私たちファン一同、ずっと貴方の翼に付き従います！　あの歌のようにイタリアの地からポーランドまで、勝利の太鼓を打ち鳴らしながら、どこまでも！」 　■バジュラ戦争で中断されたバンキッシュレースがついに再開、新リノ杯の栄冠は〈紅の薔薇〉SV-52と〈白鳥の騎士〉VF-11Bによるデッドヒートの末（2人はチームメイトだが彼女らの辞書にチームオーダーなる言葉は存在しなかった）〈紅の薔薇〉の頭上に輝いた。ウイニングランの途上ガンポッドに今は存在しない祖国の旗を掲げる〈紅の薔薇〉へ、スタンドの観衆はかの国の国歌を大合唱しその栄誉を称えたのだった。　■バンキッシュレーサー〈紅の薔薇〉ことマグダレーナ・“リーナ”・ツェロナスカは誉れあるポーランド軍人貴族の末裔である。その家系は遥かルブリン合同まで遡り、宇宙大航海時代の到来で国家や民族が過去のものとなったにもかかわらず、彼女はことあるごとに一族の名誉と祖国ポーランドの栄光を誇示し続けた。そのことは時に周囲の失笑を買いもしたが、リーナを知る多くの人達はその気高さを愛し、心からの声援を送った。　■バジュラ母星に新設されたニュー・ラグナセカ・サーキット。2060年。